back to TOP

admin |  RSS
映画のコミカライズ作品は、黎明期において主に少年漫画誌への掲載、あるいは付録本として発表されました。
中には《トモブック社》の《ベン・ハー》のように、立派に装丁され単行本として出版された作品もありますが、その作風にはやはり“漫画は子どものためのサブカルチャー”という思想が色濃く表れていました。
そんな流れを変えたのが1960年代後半の《劇画ブーム》だったのです。

■《漫画》から《劇画》へ
まず《劇画》という名称。これは貸本漫画家として活躍していた辰巳ヨシヒロさんが提唱、定着したものと言われています。
そして《劇画》とは、“それまでの《漫画》とは一線を画した新しい表現の手法。子供向け《漫画》と分類するために作られた青年向け《漫画》のジャンル”と定義されているようです。
《劇画》というジャンルが誕生した背景には、“《漫画》といえば子ども向け漫画”という固定観念に対する問題意識の表明や、貸本主流の時代にあって、読者の多くを占める労働者階級の若者のニーズに呼応しなければならない、という一部漫画家の思いがあったと言われます。そして、写実的なキャラクターや臨場感溢れるダイナミックな作画など、映画やハードボイルド小説の表現技法に強い影響を受けたのが《劇画》だったのです。即ち《劇画》は、映画にヒントを得て誕生し、やがて映画をコミカライズするための一般的な手法として定着するわけですから、これは必然的なことだったのですね。

1970年(昭和45年)、遂に世界に誇る日本映画の名作が《少年マガジン》誌上で《劇画》コミカライズ作品として発表されます。
1954年(昭和29年)に公開された黒澤明の《七人の侍》です。
同誌の創刊11周年記念企画として4週にわたって連載された《七人の侍》は200頁にわたる大作で、2012年(平成24年)には、42年の年月を経て単行本化もされました。
映画コミカライズ
ケン月影さんが描く登場人物は、映画の演者を写実し、ストーリーも黒澤明、小国英雄、橋本忍の三者によって書かれた脚本を忠実に再現、そしてその作風は荒らしくダイナミック!
映画コミカライズ
正に“これぞ時代劇活劇!”と、誰もが納得の傑作コミカライズ作品がここに誕生したのです。

一方で、前述の辰巳ヨシヒロさん等と1959年(昭和34年)に劇画制作集団《劇画工房》を結成した《ゴルゴ13》シリーズで有名なさいとう・たかをさんも負けじと《七人の侍》を1997年(平成9年)に劇画化しています。
映画コミカライズ
ケン月影版とさいとうたかを版≪七人の侍≫劇画コミックス

これは《マンガ黒澤明時代劇》全5巻として単行本化された作品のひとつですが、そのラインアップが凄い!
さいとう・たかをさんの《七人の侍(上下巻)》をはじめ、藤子不二雄さんが《用心棒》、小島剛夕さんが《椿三十郎》と《蜘蛛巣城》。これに企画途中で逝去された石ノ森章太郎さんが手がける予定だった《姿三四郎》が刊行されていれば・・・もう言うことなしだったんだけど・・・それだけが残念!
映画コミカライズ

さいとう・たかをさんの《七人の侍(上下巻)》は、登場人物の風貌もオリジナルなればストーリー展開も脚本の最終稿で割愛されたセリフをあえて取り入れるなど、映画に囚われないコミカライズが新鮮。映画《七人の侍》の最大の見せ場、豪雨の中での最終決戦にも大きく頁を割き、読後の満足感も半端ない。さすが大御所といった貫禄の一作です。
映画コミカライズ

■“日本映画+劇画=時代劇”
前述の《七人の侍》に代表されるように、日本映画の劇画化において題材として選ばれたのは主に時代劇。
やはり劇画作家には時代劇を得意とする人も多かったようですし、大人が楽しめる映画のコミカライズ作品となれば時代劇のニーズも高かったように思います。
そんな時代劇映画のコミカライズ作品のなかでも出色の出来栄えなのが平田弘史さんの《人斬り》と《座頭市》です。
映画コミカライズ
《人斬り》は、1969年(昭和44年)公開の五社英雄監督の名作時代劇。
幕末を描いたバイオレントな活劇の本作は、土佐藩の暗殺者、岡田以蔵を勝新太郎、土佐勤皇党盟主の武市半平太を仲代達矢、坂本竜馬を石原裕次郎(ちょっと意外)、そして薩摩藩士の田中親兵衛を作家の三島由紀夫が演じました。
本映画の最大の見せ場は、幕末という時代に翻弄される登場人物を熱演する役者陣の名演と、全編を貫く息もつかせぬ緊張感に違いないのですが、何といっても三島由紀夫演ずる田中新兵衛が暗殺の冤罪をかけられ、唐突に割腹自殺するシーンに尽きます。あまりの壮絶さに目を背けたくなるような鬼気迫る演技をみせた三島由紀夫は、翌年の1970年(昭和45年)11月25日、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地で実際に割腹自殺を図り、この世を去ります。
映画コミカライズ
田中新兵衛割腹シーンの、映像に漂う異様で切迫した緊張感は、さすがに《劇画》といえど表現が難しかったようで、比較的あっさりと描かれていますね。

《座頭市》は、1966年(昭和41年)に公開された《座頭市の歌が聞こえる》と《座頭市海を渡る》を同年、平田弘史さんが劇画化。1967年(昭和42年)、この2作品を収録した単行本が《サンコミックス》から発刊されました。
映画コミカライズ
この単行本は長らく廃版となっており、入手困難な1冊となっていましたが、2004年(平成16年)にめでたく《人斬り》と同じ《マガジン・ファイブ》から再販されました。

■暴力・性描写解禁!
子ども漫画の流れのなかで普及浸透した映画のコミカライズ作品は、1970年代後半には、大人(主に成人男性)をターゲットとした新たな流れを生み出します。
映画コミカライズ
東京スポーツ新聞社の《トウスポ・ブックス》は劇画シリーズとして角川映画とのタイアップ作品《野生の照明》、《悪魔が来りて笛を吹く》などのコミカライズ作品を出版し、過激な暴力・性描写なども余すことなく表現。1970年には徐々にその勢いを失いかけていた《劇画ブーム》に再び火を灯すべく健闘します。
映画コミカライズ
≪蘇える金狼≫より・・・
映画コミカライズ
≪コンコルド(上・下巻)≫より・・・お父さんたち“ムフフ・・・”な描写がたくさん(笑)

一方、洋画のコミカライズ作品にも続々と大人をターゲットした劇画作品が登場。
1965年(昭和40年)には、SF映画の名作《猿の惑星》が《漫画天国増刊 デラックスカスタム版》として出版され、1975年(昭和50年)には、あの《ジョーズ》が《ヘラルド・ブックス》から《劇画ジョーズ》として刊行されます。
映画コミカライズ
いずれもリアルな作風、残酷描写満載の正に大人のための映画コミカライズ。
とりわけ黒田みのるさんが手がけた《猿の惑星》はオリジナルな恐怖にまみれた展開にめまいさえ覚える怪作のようです。
映画コミカライズ
百%人肉のソーセージって・・・コワッ・・・

この《猿の惑星》と《劇画ジョーズ》は映画コミカライズ作品フリークの私としては、死ぬまでに是非読んでおきたい・・・いや読まねばならない2作品(笑)ですね。
映画コミカライズ
映画コミカライズ
映画コミカライズ
エロ・グロ満載の≪劇画ジョーズ≫

《漫画》から《劇画》へ、《劇画》の表現手法へのさまざまなチャレンジ、そして《劇画》ブームの終焉・・・そんな紆余曲折を経て、1970年代、いよいよ映画のコミカライズは、月刊漫画誌での連載という最後の花火を打ち上げるのです。
                                                                          (つづく)
関連記事
スポンサーサイト
COMMENT FORM
URL:
comment:
password:
Trackback
トラックバックURL: http://hrex.blog.fc2.com/tb.php/109-8b6d8d3d
Template by :FRAZ